いまだ解決されない「二重ローン問題」
阪神・淡路大震災では「二重ローン」が問題となりました。
自宅が倒壊して、住宅ローンだけが残り、住宅を再建するとさらに新たなローンを負担することになります。
毎月の支払が膨らみ、その重荷に耐え切れなくなり、消費者金融に手をだし、さらに負担が増え、やむなく自己破産するという例が跡を絶ちませんでした。
現在でも、この二重ローンで苦しんでいる人がいます。
つまり、この問題の解決策を作り出すことはできなかったということです。
「利子補給」という、金融機関などに支払う元利金のうち、利息について基金などで負担する制度はできましたが、結局「二重ローン」という根本的な問題は解決されていないのです。
これは、阪神・淡路大震災以降、解決困難な宿題として残されていました。
個人で利用できる減免制度
東日本大震災では、被災地となった沿岸部に零細農漁業者が多く、多額の債務をかかえている被災者が多数ありました。
法律相談に寄せられた悩み事も、債務の問題が非常に多かったと言います。
被災者の債務を減免するなどして救済しない限り、復興の道は開けないと相談に応じた誰もが感じていたのです。
そこで、金融庁の下に組織された研究会が策定した「被災ローン減免制度」という仕組みを使った方法がとられました。
新たに法律を定めるのではなく、債権者と債務者が協議し、債務を減免する方法です。
個人であれば、事業者でも、非事業者でも利用できます。
被災ローン減免制度の特徴
【減免の基準】
債務者は、裁判所で行う破産手続きや民事再生手続と同じような財務処理をして、それと同等あるいはそれより少しでも多くの金額を返済できる条件の整理案を示すことができれば減免されます。
【保有資産の基準】
裁判所の破産手続であっても、99万円相当額は生活資金として手元に残しておくことができます。
しかし、東日本大震災の被災者は、生活再建のための資金も必要になります。
そこで、500万円と、さらに義援金や支援金、弔慰金を手元に残せることとされました。
【信用情報機関】
被災ローン減免制度を利用する場合、信用情報機関に登録されずに、当面の債務返済はストップできます。
これにより、今後の借入れなどに大きな支障が生じるのを避けることができます。
【保証人】
債務者だけでなく、その保証人もこの制度を利用することができます。
裁判所の破産手続などは、主債務者と保証人は別々ですが、この仕組みを使えば、両方とも救済される余地があるのです。
【専門家の関与】
債務者が申込みをすると、弁護士などの登録専門家が無料で紹介され、債務や財産の調査、整理案の策定、債権者との交渉を行ってくれます。
これにより、一切知識のない人でも気軽に申込みをして、手続きを進めることができます。
法的手続きも視野に入れる
被災者が既存の債務から解放されるには、法的手続きも有効です。
「民事再生」は、阪神・淡路大震災の当時には存在しなかった再建の仕組みで、被災者の生活再建の目途が立っている場合に、債務者の負担を軽減する有効な手段です。
東日本大震災では、「破産法」に基づく破産手続の弾力的運用が注目されました。
仙台地方裁判所では、破産しても生活再建に支障が生じないように、義援金、支援金、災害弔慰金などは自由財産として手元に残すことができるようにしたり、地震保険金についても自由財産として柔軟に扱うなどの運用を行っています。
何もかも失ったのにローンだけ残る、というのは社会的に見ても不条理です。
これを救済することこそ司法の役割であり、仙台地方裁判所の弾力的な運用は、今後の大災害でも学ぶべき先例と言えます。
自由な発想で被災者を支援するための「復興基金」と理念を果たすことができなかった「罹災法」 - 南海トラフ地震警戒情報