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東日本大震災でも適用されなかった現金支給の法律! 金銭は用をなさない!?


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被災者にとって一番身近な法律「災害救助法」


これまで説明してきた災害対策基本法は一般法ですが、災害が発生したとき、被災者を救済・保護する役割を果たすのは、特別法である「災害救助法」です。


避難所、炊き出し、物資提供、仮設住宅、障害物除去、遺体の埋葬まで全て災害救助法が規定しています。



被災者にとって身近な法律は災害救助法なのですが、その存在感は薄く、また、多くの被災者の不満の矛先が向けられるのも災害救助法なのです。



災害救助法は、大きく次の3つのことを定めています。


①災害救助を誰がどのように行うのか


②どのような救助を行うのか


③その費用を誰がどのように負担するのか



東日本大震災で見られた2つの問題点


災害救助法は、条文数がわずか33しかない簡素な法律です。


そのため、現場の行政担当者には具体的な基準が必要になります。


たとえば、食事費用の上限、避難所の開設期間、仮設住宅の設備仕様などです。


災害救助法を所轄する厚生労働省は数多くの通知や事務連絡を出してきており、その積み重ねが現在の運用の基準となっています。



なぜ、法律ではなく、通知や事務連絡で基準を定めるのでしょうか?


それは、細かな基準を法律で固めてしまうと硬直的になってしまうため、状況の異なる様々な災害に機動的・弾力的に対応できるようにするためだそうです。



ところが、実際の運用は硬直的になりがちです。


たとえば、東日本大震災の被災地で見られた物資不足、劣悪な避難環境、食事の早期打ち切り、仮設住宅の不適合などの深刻な問題の多くは、弾力的運用で回避できたはずだったのです。



もう一つの問題は、責任主体のねじれです。


災害対策基本法に基づく災害対応の第一次責任は市町村にありますが、災害救助法の実施責任は都道府県にあります。


そのため、災害現場の市町村は、自らの判断で弾力的運用を行いにくいという構造上の不具合があります。



一般基準と特別基準


災害救助法の下位規範となる「災害救助法施行令」で、災害救助の程度や方法などは厚生労働大臣が定める基準によることとしています。


たとえば、2011年の一般基準では、


・食料費は1人1日1010円以内


・避難所設置費用は1人当たり1日300円以内


・避難所の開設期間は7日以内


・被災者の救助は3日以内


・仮設住宅の費用は1戸当たり238万7000円以内


と定められています。



食料費、つまり「炊き出しその他による食品」が、1日当たり1010円だけだとすると、1日3食では1食340円程度です。


食事が菓子パンと牛乳だけだったり、おにぎりとジュースだけという貧しい中身となるのは、この最低限の基準に従っているからです。



しかし、この基準はあくまで目安に過ぎません。


厚生労働省の「災害救助事務取扱要領」にも、「この取扱いはあくまでも原則的な考え方であり、硬直的な運用に陥らないように留意すること」と記しています。


被災状況に応じた救助を行えるように、都道府県知事が大臣と協議して、救助の基準を定めることができます。



東日本大震災でも、食料費の増額、7日を超える避難所の開設、避難所の代替としてのホテルや旅館の利用、1戸当たり600万円程度の仮設住宅の設置など、いわば当たり前の対応が、特別基準に基づいて行われていました。



避難所の運営


災害救助は、災害応急時の「衣・食・住」の確保を図りますが、とりわけ「住」は重要です。


避難所は、単に避難するにとどまらず、防災拠点、情報発信拠点、各種サービス拠点としても機能します。


小中学校や公民館などの公共施設が一般的ですが、民間施設や、ホテル・旅館などが避難所になることもあります。



避難所の運営のポイントは、まず、避難所運営マニュアルをあらかじめ策定しておくこと


そして、間仕切りはもちろんトイレや物干し場も含め生活上のプライバシーに配慮すること


最後に、女性に対して炊き出し作業などの固定的役割分担ではなく全体運営への積極的関与を求めることです。



応急仮設住宅


災害で家を失った被災者に仮の住まいとして提供されるのが応急仮設住宅です。


建築基準法は、仮設住宅について建築基準の緩和を認める代わりに、使用は2年以内という制限を設けています。



もっとも、大規模災害では2年で仮設住宅の撤収などできません。


阪神・淡路大震災では5年を要しました。


仮設住宅の期間の延長は、「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律」で1年ごとの更新を認めています。


仮設とはいえ、被災者にとってはそれだけ長く暮らす拠点なので、大きな関心が寄せられます。



仮設住宅は、迅速かつ大量に建築できるうえ、使用後はすぐに撤去できて保管可能なため、一般的には軽量鉄骨プレハブ工法で造る長屋型が多いです。



仮設住宅の問題点


プレハブの仮設住宅は、断熱性や居住性能の面で問題が指摘されてきました。


また、阪神・淡路大震災の際には、供給戸数の不足から高齢者が優先入居となり、公平さを重視して抽選が行われたため、地域コミュニティが引き裂かれました。


アルコールに依存する中高年や、引きこもる高齢者も増え、仮設住宅では233人もの孤独■を招きました。



木造の仮設住宅


東日本大震災では、岩手県住田町の木造仮設住宅が注目されました。


この町では震災前から、地元木材を使用し、気仙大工の技術を活かした木造戸建ての仮設住宅の開発に取り組んでいました。



東日本大震災が発生し、その後直ちに実行に移しましたが、県は当初、法的に何ら問題がないにもかかわらず、前例がないとの理由から仮設住宅として認めませんでした。


しかし、住田町は町の費用を使って仮設住宅を完成させ、陸前高田市、大船渡市の被災者に提供しました。


入居者にはたいへん好評で、住宅性能の高さに加え、安価で組み立ても容易で、移築して恒久住宅としても利用可能という点が優れていました。



福島県でも4000戸の仮設住宅を地元の木材と企業を活用して、被災者の雇用機会の創出にも結びつけました。



しかし、宮城県では、すべてが従来型の軽量鉄骨プレハブ住宅で、スピード優先で東京のメーカーに一括発注したため、地元の雇用創出にもつながらず、大量の空室も発生し、しかも寒冷地仕様でなかったことから年末まで補修工事を行うという状況でした。



泥の掻き出しは本来は行政の責務


災害救助法施行令は、「災害によって住居又はその周辺に運ばれた土石、竹木等で、日常生活に著しい支障を及ぼしているものの除去」、つまり住居に漂着した障害物の取り除きについて定めています。



東日本大震災では、自宅の前に船が漂着していたり、屋根の上に自動車が載っていたりしている情景が見られました。


これらも、災害救助として移動ができます。


また、水害の場合、浸水にともなう大量の泥のかきだしなどが必要ですが、これも「障害物の除去」にあたります。


最近、泥だしボランティアがよく活動していますが、本来は行政の責務なのです。



東日本大震災でなぜ現金支給がなされなかったのか?


被災地では現金が望まれています。


雲仙普賢岳噴火災害では、国土庁と長崎県による食事供与事業が行われ、食事の現物給付と食事代の現金支給の選択肢を用意したところ、全員が現金支給を選びました。


また、阪神・淡路大震災では公的給付として現金支給を求める大きな市民運動が起きました。


東日本大震災でも、漁師や農家など働く場を失った零細事業者には現金支給が必要なのにも関わらず、政府や自治体は一切災害救助法に基づく現金支給を認めませんでした。



災害救助法には、「生業に必要な資金、器具又は資料の給与又は貸与」と明記されています。


また、現物給付に代えて金銭支給ができるという条文もありますが、これも適用されませんでした。



その理由は、厚生労働省の「災害救助事務取扱要領」にあります。


この災害救助事務取扱要領が「災害が発生すると、生活に必要な物資は欠乏し、あるいはその調達が困難になるため、金銭は物資の購入にはほとんどその用をなさない」場合を想定しているからです。


しかし、これは金銭より現物のほうが有り難かった時代のことで、高度に発達した貨幣経済社会で通貨が「ほとんどその用をなさない」ことなどは考えられません。



もう一つの理由は、「金銭を給付すれば足りるような場合には、通常、法による救助を実施して社会秩序の保全を図らなければならないようか社会的混乱があるとは考えにくい」との想定です。


つまり、金銭を給付すれば救助が足りるような小さな災害には、災害救助の必要がないということです。


しかし、災害は大小にかかわらず金銭給付が必要な場合は間違いなくあるため、まったく理由になっていないのです。



法律の誤解が被災者の命を脅かす


災害救助法自体は弾力的に使える仕組みになっていますが、うまく機能していない理由は、「災害救助事務取扱要領」の中の5つの原則にあります。



①平等の原則
災害時には、個々の事情や経済的な状況を問わず、救助を必要とする人には平等に救助の手を差し伸べなければならない。


②必要即応の原則
被災者ごとに必要な程度の救助を行うべきであるが、必要を超えて救助を行う必要はない。


③現物給付の原則
災害時には物資の調達が困難となり、金銭は用をなさないので、現物を給付する。


現在地救助の原則
救助は、被災者の現在地で実施するものとし、旅行者や訪問者らも含め、その場所の都道府県知事が行う。


職権救助の原則
被災者の申請を待たず、都道府県知事が職権で救助を実行するものであり、形式的には、被災者の側からの異議申し立てなどは認められない。



これらの原則には法的な根拠も拘束力もなく、運用方針を決める一つの考え方に過ぎません。


しかし、実際にはこれらの原則のために救助が進まないケースが多いのです。



たとえば、「平等の原則」を逆手にとって「他の人も我慢しているのだから、あなたも我慢すべきである」などと使われることがあります。


また、「必要即応の原則」を強調して、早々に救助を引き揚げる場合もあります。


このような捉え方の誤りが積み重なることによって、救助や復興に支障を来しているのです。


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